多言語に対応する特許翻訳者
コラム
公開日: 2014-02-24 最終更新日: 2015-04-12
frolickingって、どんな動き?
特許翻訳を手がけるようになって22年目ですが、特許以外の仕事をすることも、ときどきありました。
そのひとつが、書籍『幸せへのキセキ』の監訳です。
これは、20世紀フォックスが2012年に全国ロードショウを展開していたハリウッド映画の原作本。
映画では脚色がかなりなされていましたが、書籍のほうは実話です。
その監訳にあたって、特許翻訳では無縁だった言葉に膨大な量で出会いました。
もともと、探偵さながらに「足で調べる」タイプの翻訳スタイルを採っていますが、このときは輪をかけて外に出ています。
たとえば・・・Frolicking otters。
翻訳者が選んだ表現は、「浮かれ騒ぐカワウソ」でした。
そして手元の辞書には、たとえば次のような定義が載っています。
frolic / When animals or children frolic, they run around and play in a lively way.
(コウビルド英語学習辞典)
frolic / to play and jump around happily
(LONGMAN DICTIONARY OF CONTEMPORARY ENGLISH)
おおよその感じはつかめますが、これもカワウソの動きがわからないことには、判断しにくいですよね。
ということで、実物を見に行きました。
横浜市のズーラシアに、「ユーラシアカワウソ(Eurasian Otter)」が飼育されています。
ただし、カワウソはもともと、夜行性。
ズーラシアのウェブサイトに掲載された写真(→こちら)にも、遊んでいるシーンはありません。
昼間の開園時間内に出会えるかどうか自体が、「運次第」なのです。
まぁ、ズーラシアには他にも用事がありましたし、ひとまず行くだけ行ってみよう。
そう思って足を運び、カワウソの放飼場を覗いたとき、予想どおり(?)1匹も姿が見えませんでした。
山奥の渓流を模したエリアになっていて、人間は、2.5mくらい上から見下ろす形になります。
このため、茂みの中に潜っていたら、もう探すすべはありません。
ところが。
やはり昼間はダメなのかなと諦めかけたとき、放飼場の渓流で勢いよく水の跳ねる音がしたのです。
ふと下を見下ろすと、なんと2匹のカワウソが、元気にじゃれあって遊んでいる…。
神様に味方してもらったと、そう思った瞬間でした。
2匹は仲良しのようで、潜ったり上に出たり、クルクルまわりながら、とても楽しそう。
その動きはとても素早くて、何枚も写真を撮った中で、形を確認できるものはごくわずかでした。
本物のカワウソが、飼育場というより自然界そのままの中で動き回っている様子を、生まれて初めて見ました。
これは本当に、一種の感動体験です。
まさに、お祭りで浮かれ騒いでいるようでしたよ。
これがもし、たとえば仔イヌに対して「frolicking」が使われていたとして、同じ日本語でよいのかどうかは微妙です。
カワウソを眺めながら思ったのですが、地上で動物が走り回ったりじゃれたりする動きとは、明らかに違うから。
水中でのあの動きなら、浮かれ騒ぐという表現に照らしても、(少なくとも私には)違和感がない。
翻訳者が、どうやってこの表現に至ったのかは知りませんが、スッとなじみました。
じつは、『幸せへのキセキ』に絡む動物園めぐりでは、こういう「奇跡」のようなタイミングで動物たちの貴重な姿を見たことが、一度や二度ではありません。
ほんの数分あるいは数秒でも違っていたら、おそらく出会えなかったであろう場面です。
原題 We bought a zoo の映画が日本で「幸せへのキセキ」になったのは、作業を進めたずっとあとのほうですが、監訳をしたわたしにも多くのキセキを運んできてくれた、というわけです。
必要な情報に関しては手に入るまで何度でも動物園に足を運ぶつもりでいましたけれど、想像以上に「1日で片づいた」ことが多く、かなり助けられましたから。
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