コラム

 公開日: 2015-03-23  最終更新日: 2015-03-24

古い米国特許審査便覧(MPEP)をさかのぼる

ひとつの基礎出願に対するパテントファミリのうち、米国以外は名称の先頭単語がimprovedやimprovementなのに、米国のみこれらの単語が削られているケースが、ときどきあります。
(例:WO/2009/001737やWO/2008/129971)
おそらく、米国特許審査便覧(MPEP)§606が反映された結果でしょう。

MPEP 606から一部抜粋
Inasmuch as the words "new," "improved," "improvement of," and "improvement in" are not considered as part of the title of an invention, these words should not be included at the beginning of the title of the invention and will be deleted when the Office enters the title into the Office’s computer records, and when any patent issues. Similarly, the articles "a," "an," and "the" should not be included as the first words of the title of the invention and will be deleted when the Office enters the title into the Office's computer records, and when any patent issues.

■該当部分の日本特許庁による参考邦訳
「新規の」,「改良された」,「~の改良」及び「~に関する改良」等の文言は発明の名称の一部とはみなされないので,これらの文言は発明の名称の冒頭に含まれてはならず,また,特許商標庁が発明の名称を特許商標庁のコンピュータ記録に入力するとき,及び特許が発行されるときは,削除される。同様に,冠詞「a」,「an」及び「the」は,発明の名称の最初の文字として含めてはならず,また,特許商標庁が発明の名称を特許商標庁のコンピュータに入力するとき,及び特許が発行されるときは,削除される。

ただ、古い米国特許には、該当単語を先頭に含むものが存在しています。
例)
米国特許第139,121号(1873年5月20日登録)
  IMPROVEMENT IN FASTENING POCKET-OPENINGS. リーバイスのジーンズ。
米国特許第174,465号(1876年3月7日登録)
  Improvement of Telegraphy グラハムベルの発明です。

では、いったい「いつから」変わったのでしょうか。
審査便覧を過去に遡ってみれば、わかりますよね。

翻訳の現場にいると、これに限らず古い審査便覧を参照したい場面がときどきあります。
多いのは、「○○は××と訳す」「△△と訳してはいけない」などと言われたことの根拠を求めるとき。
あるいは複数の書籍の記載内容に食い違いがあるとき、出版当時の事実を確認する場合などです。

そういうときは、こちら。1948年以降の米国審査便覧が揃っています。
PDF Copies of MPEP Editions and Revisions 1948 - 2012

最初の版に、先頭単語に関する記述はありません。
1953年11月の第2版にも、先頭単語云々はありません。ただ、初版と比較すると次の記述が増えています。
The title of the invention should be in the singular as this in the way it will appear on the face of the file and in the patent. Even though applicant should use a plural title, this Office will employ the title in the singular.
単数にしてね、ということのようです。

このくだりは、1961年11月の第3版で削除されていました。
そして1979年6月の第4版。
newという語と冠詞の記述がなく、should not be includedではなくdoes not includeであるなど、現行のものとは若干異なりますが、606.01に次のくだりが登場します。
Inasmuch as the words "improved," "improvement of," and "improvement in" are not considered as part of the title of an invention, the Patent and Trademark Office does not include these words at the beginning of the title of the invention.

1983年8月の第5版、1995年1月の第6版、1998年7月の第7版も同じ。
そして2001年8月の第8版。
Inasmuch as the words "improved," "improvement of," and "improvement in" are not considered as part of the title of an invention, these words should not be included at the beginning of the title of the invention and will be deleted when the Office enters the title into the Office's computer records, and when any patent issues.

コンピューターへの記録に関するくだりが登場し、newと冠詞まわり以外は現在と同じになりました。
上にあげた現行の文言で語数に関する記述を割愛しているのですが、その部分も第8版で加わりました。
まさに電子化対応ですね。
以後は今のところリバイズで、2006年8月のRev.5から「new」と「Similarly」以下が増えています。

審査便覧も、こうして同じ項目を追いかけてみると、いろいろなことがわかりますね。
ここではシンプルな例として発明の名称を取り上げましたが、請求項に関する審査基準の変遷をたどってみるというのも、おもしろいかもしれません。

なお、日本で出版されている書籍の中には、「発明の名称で」improvementなどの語を使ってはいけないと説明しているものもありますが、これは誤りです。
実際、米国特許のデータベースで発明の名称に限定してimprovementなどのキーワードを検索すると、何万件もヒットします。
これらの単語が、名称の先頭にくることはないだけで。

この記事を書いたプロ

有限会社サグラーシェ

通訳・翻訳 水野麻子

東京都西東京市新町4-1-3-601 [地図]
TEL:0422-38-5035

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