コラム

 公開日: 2015-03-21 

一括置換マクロ用辞書のバリエーション

語句の一括置換マクロ用「辞書」の応用例です。
何年か前に、セミナーで説明した内容から一部を抜粋・アレンジしてみました。
ここでは、ぱらぱらの辞書を例に取り上げますが、他の置換マクロでも考え方は同じです。

以下、→記号は、タブを示します。
■学名
発注元や案件によって、和訳時に「原語表記のみ」「原語と日本語名の併記」「日本語名のみ」など指定があります。ひとつの辞書で、こうしたばらつきに対応するための方法です。
例)
Staphylococcus aureus→【【(Staphylococcus aureus)(スタフィロコッカス・アウレウス)(黄色ブドウ球菌)】】
Escherichia coli→【【(Escherichia coli)(エシェリキア・コリ)(大腸菌)】】

【【 】】で、その置換部分は通常の「見出し-訳語」のペアではないことを表示しています。
原語、属名+種小名のカタカナ表記、日本語訳の3つを並べて、「それぞれに」カッコ書きにしてあります。
発注要件が原語とカタカナなら原語の( )と日本語訳部分を削って
 Staphylococcus aureus(スタフィロコッカス・アウレウス)
とし、日本語訳のみなら前を削るなど、特定の文字列を削除するだけで柔軟に対応可能です。

■2通り以上の原語に同じ訳語があり得る場合
異なる資料でばらつく場合は問題ないのですが、同じ資料の中で表記揺れがある場合に、念のため注意を喚起します。
そのまま同じ訳にしておくか訳注を添付するかなど、そのつど個別に判断します。
例)
white blood cell→白血球◆
white cell→白血球◆
leukocyte→白血球◆

一括置換したあとでも原語が異なっている可能性があることを明示するために、マークをつけています。
翻訳作業時に確認の上、マークを削除していけばよいでしょう。

■よくある原文誤記
一括置換マクロでは誤記があると置換されないのですが、関連ケースの翻訳などでは同じ誤記が複数案件にまたがって出てくることもあります。
そういうときは、誤記を誤記として辞書登録してしまいます。
1年後、2年後という期間をあけて関連ケースが出てくることの珍しくない特許翻訳であれば、誤記に出会って正しいスペルを特定するたびに、その情報も蓄積していくのもひとつです。

ただし、訳注添付の都合がありますので、もともと誤記だったことを示しておくのを忘れずに。
正しいスペルを一緒に入れておけば、訳注添付時の時間短縮にもなりますよ。
例)
human papilomavirus→【【ヒトパピローマウイルス(正:human papillomavirus)】】
compoud→【【化合物(正:compound)】】

■動詞
一括置換マクロでは、「訳語がひとつに決まるもの」を辞書登録しておくのが大原則です。
このため動詞は登録しにくいのですが、出てくる動詞と活用が限られている場合は、工夫次第です。
例)
concentrat→濃縮
centrifug→遠心処理

意図的に末尾のeを抜いて登録しています。
置換時の設定を部分一致にしておくことで、置換結果は

concentrateなら濃縮e、
concentratingなら濃縮ing、
concentratedは濃縮ed

となり、「する」「し」「した」などの送り仮名部分だけを入力すれば、あとは余分な文字を消すだけです。
置換後も、もとの活用がわからなくならないように辞書登録するのがポイントンです。

このため、特許明細書の実施例など過去形が大半だとわかっているような場合は、次のような登録の仕方も可能でしょう。
例)
stirred→攪拌したed
heated→加熱したed

末尾-edは過去分詞として形容詞的な用法になることもありますので、念のためもとがed形だったことを置換データに「全角で」示しています。
これは純粋に見落としを防ぐ目的ですので、見落とさないよという人は半角で示しておいてもよいですし、ed表示なしで訳語だけを登録するのも可です。
どのみち最後は原文に照らして見直しをしますので、そういうことも含めて工夫してみてください。

以上、いくつかの例をあげましたが、
・いかにストローク数を減らすか = 文字を入力するより、削除するほうが間違いもなくラクです
・いかに原文の情報を維持するか = あまり大胆に置換しすぎてしまうと、かえって分かりにくくなります
・いかに辞書の二度引きなどの手間を減らすか
ということを考えていくとよいでしょう。

なお、用語の一括置換は便利ではありますが、語句によっては「昔は正しくても今は間違い」ということもありますし、学会などで定訳・標準訳が変更されることもあります。
このため、自分の扱う分野の用語事情は、定期的に確認する必要があるでしょう。

また、自分自身のスキルも日を追うごとにあがっていきますから、たとえば現在なら3年前に調べて決めた訳とは違う訳にするとか、そういうものもあるかもしれません。

置換用の辞書の蓄積は蓄積として、ときどきメンテナンス&アップデートをしていくことも、お忘れなく。

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通訳・翻訳 水野麻子

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