多言語に対応する特許翻訳者
コラム
公開日: 2015-03-20 最終更新日: 2015-03-21
誤訳を「資産として」利用する
何日か前に、特許関連のシステムを使って翻訳ミスを見極める方法について書きました。正しい訳語の選別ではなく、明らかなミスの抽出に着目し、過去に蓄積された膨大な「誤訳を資産として」利用しています。
これにメールマガジンで触れたところ、Wordマクロで半自動化してくださった方がいらっしゃいます。
→【右クリックでGoogle!】アスタミューゼを利用して誤訳判断をする
せっかくなので、自動化の幅をさらに広げることを考えてみましょう。
たとえば・・・
日常業務でアスタミューゼを検索し、明らかに誤りだろうという語を特定したら、それを保存しておきます。
「用語+タブ+用語」の組み合わせを1行として、テキストファイルに加えていくだけです。
→記号がタブだとすると、
ポンピングステージ→ポンピングステージ
カップリング助剤→カップリング助剤
心胸外科→心胸外科
という具合です。このようにして、「辞書」を作成します。
そして和訳文の見直し/チェック時に、この辞書を使ってぱらぱらの置換処理をします。
日本語の文章(翻訳文)に対して、日本語の置換処理をかけています。
これ、和訳文の中にある「誤訳(の可能性の高い語)」に、ハイライトを付けて抽出しているのですね。
※毎回、置換する前に用語の文字数が多い順に「辞書」を並べ替えておいてください。
この方法は、個人の翻訳者よりむしろ、翻訳会社での用途が多いかもしれません。
アスタミューゼを使うか否かとは無関係に、チェッカーが修正した明らかな誤訳を社内で情報共有すれば、「チェックの前処理」として自動化できます。
なお、この「辞書」は翻訳ソフトや校正ソフトの辞書とは違って単なるテキストファイルですので、必要に応じてメモ書きなどを入れることも可能です。
例)
ポンピングステージ→ポンピングステージ
カップリング助剤→カップリング助剤★★【訳注添付】★★
心胸外科→心胸外科★★【中国語の可能性あり;要検討】★★
メモ書きは、他には絶対に出てきそうにない文字を入れるなど明確に区別できるようにしておきます。
上の例では「★★【」と「】★★」が区別のためのマーカーです。
辞書に登録があって一括置換に使用された語は別ファイルに抽出されますので、そのファイルでマーカー文字を検索すれば、注意すべき語句が混じっているかどうか簡単に確認できますね。
これはひとつの例にすぎませんが、とかく嫌われ者になりがちな誤訳も、工夫次第では業務の効率化に一役買ってくれるのです。
もちろん、翻訳の段階で誤訳をゼロにできるのが理想ですが、業界全体でみたとき、なかなかそうもいかないのが現実でしょう。
ならば、その誤訳を逆利用してしまう。
チェッカーの過去の修正作業も無駄にせず、それ以降の業務に利用してしまう。
こういう発想が、あってもよいと思うのです。
メールマガジンバックナンバー
・誤訳訂正の舞台裏と、誤訳の見極め (3/15)
・誤訳の立証と、チェッカーの仕事 (3/19)
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