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公開日: 2015-01-25 最終更新日: 2015-01-26
gradeabilityとgradability、同じ単語?違う単語?
最初にお断りしておくと、今回に関しては(オンライン辞書の誤訳カテゴリに入れてはいますが)本当に誤訳なのか、100%クリアになっているわけではありません。
そういうつもりで、読み進めてください。
gradeabilityという単語があり、Websterには「the steepness of grade that a motor vehicle is capable of climbing at efficient speed」と定義されています。
そして研究社の『新英和大辞典』第6版には、名詞として「(自動車の坂に対する)登坂(とはん)能力」という訳が載っています。
Weblioをインタフェースとしている各種の辞書でも「登坂能力」で、若干、グレードアビリティが併記され・・・。
グレードアビリティという表現が正しいかどうかはともかく、ここまでは、まだ良いのです。
問題は、eをひとつ抜いたgradabilityという単語です。
同じ研究社の『新英和大辞典』第6版に、登坂能力とは「別の名詞」として「等級づけができること」「【文法】程度表示可能性」と訳が載っているのに対し、Weblioではeがあってもなくても関係なく、登坂能力が訳語として出てきます。
そしてWebsterに、gradabilityは掲載されていません。
では、Googleで
gradability 登坂能力 -gradeability 【1】
gradeability 登坂能力 -gradability 【2】
として検索すると、どうなるでしょう。
多くの場合、検索結果の上位にオンライン辞書がヒットする語は「誤り」です。
ところが今回は、1と2のどちらのパターンで検索しても上位がオンライン辞書になるため、この観点での比較はできませんでした。
1で検索してヒットする41件には、株式会社関東機械センター、三菱重工といった企業のコンテンツに加えて、社団法人日本建設機械化協会規格の用語集(履帯式建設リサイクル機械用語)、自動車技術会の出版物紹介などがあります。
2で検索してヒットする37件には韓国語や中国語が多く、一見するとこちらが間違いのような気もしますが、
日本建設機械化協会規格の用語集(高所作業車用語、不整地運搬車用語)のほか、「JIS B 0146-1:2000 クレーン用語」が入っているのですね。
さらに、大英和辞典の訳語から
gradability "等級" -gradeability
gradability "程度表示" -gradeability
もGoogle検索を試してみました。結果、英語と日本語の対応関係を示す有意な結果は認められません。
参考までに、大英和辞典の程度表示可能性という訳に【文法】という断り書きがついていたため、
gradability 文法
という検索をしてみたところ、「段階性」という訳が出てきました。これを受けて
gradability "段階性" -gradeability
とすると、ようやく検索結果の上位がオンライン辞書ではなく論文になります。
逆に
gradeability "段階性" -gradability
では、何もヒットしません。
このことから、文法用語限定ではありますが、gradability=段階性だろうと考えられます。
分野が変われば、同じ単語に異なる訳が対応することは、よくあります。
このため、以上の結果をもって、gradability=登坂能力を「誤訳」だと断言する根拠にはなりません。
ただ、大英和辞典の内容に照らしてもgradeabilityとgradabilityは別の単語で、「登坂能力」にeのないgradabilityを対応させるのは、誤用・・・・では?
もちろん、印刷版の英和辞典が常に絶対に正しいとは言い切れませんよ。
言い切れませんが、eなしの登坂能力は、かぎりなく誤用ニアイコールではないかと。
以上、こういうこともあるという例のひとつとして、取り上げてみました。
「登坂能力の謎を解く」で、誤用と思われる根拠をさらにあげています。併せて参照してください。
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