コラム

 公開日: 2014-11-24 

応力(stress)と力(force)は、同じもの?

京都大学の大学院が母体となっている、ライフサイエンス辞書プロジェクト。
オンライン版は、WebLSDとして長年にわたって親しまれています。
この辞書で「shear force」を調べると、訳語は「ずり応力」とありました。

・・・・・・応力?
少なくとも日本語では、剪断力と剪断応力(ずり応力)は別のものですし、応力に対応する英単語は普通はstressです。
そこで、英語では剪断に関してstressとforceが同義になるのか否かを調べてみたところ、次のような説明を掲載している書籍がありました。

When the force is directed normal (or perpendicular) to the region (or area) of interest (at in Section 2.1), the stress on the area is called "normal stress" or "simple stress" and the resulting strain is called "normal strain" or "simple strain." If, however, the force is directed tangent (or parallel) to the cross section, it is called a "shear force" and the corresponding stress is called a "shear stress." Figure 2.6 illustrates this concept, where V is a shear (or "shearing") force exerted on a block B.
The shear stress τ is then defined as
   τ = V/A
where A is the area over which V is acting.

『Practical Stress Analysis in Engineering Design』第3版 pp.13-14
(図を参照したい方は、Google Booksで閲覧できます。)

shear(ing) forceとshear stressは、明らかに「別のもの」ですね。

参考までに、shear forceを英辞郎で検索してみたところ、訳語は「せん断力」。
ただし、ヒットしてきた中に「arterial shearing force」という語があり、こちらは訳語が「動脈壁のずり応力」となっていました。

arterial shearing force・・・?
何だろうと思い、次はGoogle検索です。総ヒット数は、わずか11件。
うち英辞郎が半分の5件ですから、ほぼ確実に、実際には存在しない用語でしょう。

検索結果には論文が2つ混じってはいますが、片方は日本人が書いた英文の博士論文、もう片方は日本人が書いた日本語論文の英文抄録でした。

米国公開公報(US 20040263968 A1)もヒットしていますが、日本語の明細書でホメオトロピック配向のための配向法の例として記載された「ずり応力法」に対応する英訳で、これは誤訳だと思います。
arterial=動脈とは、まったく関係ない・・・ですよね。

shearing forceの誤訳として、オンライン辞書では他に科学技術振興機構の「大型ばさみ」、Weblio専門用語対訳辞書の「負担せん断力」、クロスランゲージ37分野専門語辞書の「剪断荷重」がありました。
いずれも、Weblioの検索で出てきます。

大型ばさみは、名詞shear単独の意味として存在しますので、これとの勘違いでしょうか。
負担せん断力は、本来 shear force carried by something のように説明的な表現であるはずのところ、意味を考えずにshear forceだけを抜き出した結果かもしれません。
剪断荷重(shear load)と剪断力が一緒になってしまった理由は・・・謎ですね。

批判や非難の意図はありませんが、オンライン辞書にいかに誤りが多いかを示すひとつの例として、あげてみました。

この記事を書いたプロ

有限会社サグラーシェ

通訳・翻訳 水野麻子

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