コラム

 公開日: 2014-10-27 

「最新」とは限らない、データベースの収録語

日本語と英語の両方に対応した物質名データベースとして現在もっとも規模が大きいのは、おそらく科学技術振興機構(JST)提供の日本化学物質辞書Web(日化辞Web)でしょう。

収録件数は300万件以上にのぼり、英語/日本語名称のみならず、分子式、分子量、CAS番号、さらには用途や法規制番号での検索も可能です。
ChemDrawのプラグインをインストールすれば、構造図からの検索も可能。
これだけの規模でありながら、すべて無料で提供されています。
翻訳者としては、非常にありがたいサービスですね。

ただし、英辞郎やWeblio同様に、日化辞Webで見つけた「訳語」も別の手段で確認する必要があります。
ひとつには、必ずしも情報が最新であるとは限らないから。

たとえば、rivaroxabanという物質名があります。
これを日化辞Webで調べると、日本語名称に「リバロキサバン」と記載されています。

以前は、何の問題もありませんでした。
ところが2011年末に、厚生労働省医薬食品局審査管理課による名称変更で「リバーロキサバン」に変更されています。

オンライン辞書/データベースには、こういう情報が反映されていない場合があるのです。
似たようなことは、日本薬局方の改正時における名称や表記の変更などにも、当てはまるでしょう。

そしてこの類の用語は、単純に検索エンジンで検索する程度では、確認しきれないことがよくあります。
例えばGoogleで
  rivaroxaban 日本語
と検索すると、最初の数十件に出てくるのは「リバロキサバン」ばかり。

WebLSDなど別の手段を併用すると「リバーロキサバン」も見つかりますが、少なくとも現時点で「リバロキサバン」と「リバーロキサバン」の両方をGoogleで検索すると、前者のほうが数が多いのです。
これは、J-Globalの学術資料データベースでも同様でした。
名称変更がなされたのが2011年ですから、まだ、古い情報がいくつも残っているのですね。

こういう場合にどうするかというと・・・。
ひとつは、調べたい用語が関連していそうな省庁のサイトを検索してみる方法があります。
rivaroxabanの場合は、厚生労働省。
英単語での検索で「リバーロキサバン」が出ますので、これを使ってもう一度検索すると、変更に関する情報が手に入ります。
あとは、簡単ですね。
変更がなされた事実の根拠となる書類を、手に入れればよいだけですから。

もちろん、全部の用語にいちいちこのような調査をしていたら、とても時間が足りないでしょう。
当然、突き詰める語と突き詰めない語を切り分けて、後者は調査を適宜「捨てる」ことも必要です。

特に、リバーロキサバンのように、医療事故防止が理由で変更された名称(下記に参考資料あり)は、旧名でも完全な誤訳になることはないと思います。
このため、単なる例示程度であれば、実害がないといえばその通りかもしれません。
でも、そもそも「間違い防止」目的で変更されたのですから、翻訳者としては、最新の名称を使いたいところです。

ちなみにGoogleで
  一般名称 変更 医薬
などの検索をしてみるとわかるように、名称変更は、それほど珍しいことではなさそうです。
また、医薬に限らずどの分野でも、学会が用語改訂をすることも時々あります。

印刷物の書籍なら、奥付の発行年を見れば「いつの時点の情報なのか」は明らかです。
でも、オンラインの世界には、そういう明確なラインがないのです。
だからこそ、「情報が古いかもしれない」という意識を持つことは、常に必要かもしれませんね。

【参考】
■日経メディカル:リバロキサバンから「リバーロキサバン」へ一般名変更

■日刊薬業 2011.12.13 厚労省通知 「リバロキサバン」を「リバーロキサバン」へ変更
---部分抜粋---
厚生労働省医薬食品局審査管理課は8日付で、医薬品の一般的名称(JAN)について、「リバロキサバン」を「リバーロキサバン」に変更することを示した課長通知を都道府県に送付した。同省医薬食品局安全対策課によると、変更理由は、一般名と販売名で異なるが、脂質異常症治療薬「リバロ錠」(一般名=ピタバスタチンカルシウム)と頭文字3文字が同一で、医療現場での名称類似を起因とした事故を未然に防ぐための安全対策上の対応という。
---ここまで---

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