コラム

 公開日: 2014-09-02  最終更新日: 2015-03-15

Weblioは、いつでも信頼できる?

Googleで検索したときに、一番上に英辞郎やWeblioのページが出てくる用語は、かなりの確率で間違っているか、間違いとまでは言わなくても、ほとんど使わない言い回しなどです。

たとえば、「発熱性物質除去蒸留水」。手元の環境だと、検索結果の上位8件までがWeblioです。

ただし、Weblioそのものは、言ってみれば単なる枠組みに過ぎません。
実際の用語は、(独)科学技術振興機構の「JST科学技術用語日英対訳辞書」の収録です。

そして「発熱性物質除去蒸留水」という表現は、現時点のネット上だと、Weblioと一部の翻訳公報にしか見当たりません。
残りはすべて特許出願からのヒットで、1件を除いて翻訳公報ばかり。
こういう語は、翻訳者の立場では使えない/慎重に取り扱う必要があると思って、間違いないでしょう。

そもそも、この発熱性物質除去蒸留水。
どうやって出てきた表現なのかというと、もとは次のような検索です。

"pyrogen free water" 水

pyrogen free waterという語句の訳を探すときに、翻訳者が使いそうな検索キーワード。これで一番上にWeblioがヒットして、その中に記載がありました。
sterileを加えた、sterile pyrogen free waterの対訳語としての扱いです。
論文データベースCiNiiで検索しても、ヒットゼロ。
いわゆる専門雑誌・新聞を含む150紙誌の有料全文検索データベースでも、ゼロ。
これ、どう思いますか?

原語を考えてみると、freeは単に存在しないことを示しているだけで、除去したのか他の手段(不活性化など)で無い状態を作ったのかということには、関与していません。
「除去」と訳すと意味に違いが生じ、特許翻訳なら、権利範囲を大きく変えてしまう可能性があります。

かたや「パイロジェンフリー水」なら、国内企業のサイトなどにもいくつか出ています。
とはいえ、中には滅菌精製水とパイロジェンフリー水を同義に扱っている例もあれば、滅菌精製水のうち特に高品質のモノとしている例も。

言葉の観点から言えば、「滅菌精製水」は製造方法によって特定された水なのに対し、「パイロジェンフリー水」は水の状態によって特定されていますので、パイロジェンフリーと滅菌精製を同次元で比較することがそもそもおかしいのです。

さらに、使用方法で特定することも可能です。
滅菌精製水は、一定の条件を満たせば注射用水として用いることができ、pyrogen free waterは、製造方法次第では注射用水として用いることができる、というような言い方もできるわけです。

精製水や注射用水は日本薬局方に定義があり、翻訳時には、こうした定義を参照しつつ原文に合う訳を決めなければならないこともあるでしょう。
ただ、用語が本質的に持つ意味を変えてしまうわけにはいきません。

いずれにしろ、Weblioに載っているから、特に出典が科学技術振興機構の辞書だから安心・・・・・ではないのです。
この辞書には、論文などの「翻訳によって」生まれたと考えられる語句が、相当数で含まれていることが理由です。

ただ、科学技術振興機構の名誉のために付け加えておくと、同機構が提供している最新のJDREAMというデータベースで検索すると「発熱性物質除去蒸留水」は存在しません。

 JDREAM
 http://jdream3.com/

同じく、pyrogen free waterを検索すると、訳語は「パイロジェンフリー水」の他に、「パイロゲンフリーな水」「発熱性物質を含まない水」「無菌純水」など。
いずれも、外国語論文等の翻訳によるものです。
前の3つは実務で訳語として使えるケースが多いと思いますが、最後の1つは誤りでしょう。

参考までに、JST辞書のデータは、翻訳ソフトの専門用語辞書にもわりと使われています。
そのことは、複数の翻訳ソフト/システムで辞書を検証してみると、良くわかります。
他では見当たらず、JSTだけに掲載がある用語というのが、わりと高頻度で存在するからです。

最後に誤解のないよう付記しておくと、今回の話は、JSTを頭ごなしに「ダメ」だと言っているわけではありません。
翻訳ソフトの辞書も含めて、語数の多さはメリットのひとつでもあり得ますし、制作にも膨大な時間と手間がかかっているでしょう。
そのことに感謝しつつ、あくまで訳語の「候補」を探すための手段として利用するなど、使い方のほうを工夫することが重要だと思います。

ここであげた例でいえば、科学技術振興機構の名前に判断を狂わされず、そのつど確認することが、一番大切かもしれませんね。

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