コラム

 公開日: 2014-04-17  最終更新日: 2014-08-08

多言語翻訳の舞台裏(7)-資料のレベル

多言語翻訳の舞台裏(3)-辞書はあとまわしという話の中で、専門書を選ぶ/読むときのコツを3つあげました。
そのうちのひとつが、難しいと感じたらあまり無理をせず、別の資料を使うことです。

知りたい技術内容があるとき、それについて書かれた本は、通常は1冊だけではないはずです。
世の中には、たくさんの専門書が存在します。
難しいと感じたら、目の前にある特定の本にこだわる必要など、ないのですね。

目的は、「特定の本の内容」を理解することではなく、「知りたい内容を知る」ことだから。
たまたま手にした手段(=書籍)でうまくいかなければ、別の手段に変えるだけ。
シンプルです。

このとき、
(1)対象技術とその周辺を広く扱う書籍で全体像を総論的にとらえ、そのあと細かいレベルの各論を別の本で理解する
(2)対象技術自体を、わかりやすく平易に書いた資料を使う
(3)ひとつの内容について、別の著者が書いた本を最低でも3~4種類は読む
など、アプローチは何通りかあります。

たとえば・・・
秀和システムの「○○の動向とカラクリがよーくわかる本」や日刊工業新聞社の「~のはなし」シリーズ、あるいはブルーバックスなど、どの分野にも、特定の技術について全体像を俯瞰する書籍は存在します。

知りたい内容によっては、百科辞典や中高生の教科書でも良いですし、図書館で児童書に分類されるような書籍ですら、案外役に立つものです。

理解に苦戦しながら読むよりも、わからないものはさっさと手放して、他の資料に変えるほうが何倍も負荷が小さく効率的。
和書だけでなく洋書も同様で、ときには『Time for kids』程度のレベルまで落とすことも。
(※『Time for kids』=雑誌『Time』の子ども版)

市町村立の地域図書館だと不十分かもしれませんが、中央図書館クラスになれば、技術系の資料もそれなりに揃っているでしょう。
大学図書館の一般利用、さらには分野ごとの専門図書館を利用するのも一案です。

とにかく、自分が理解できるレベルまで難易度を下げ、全体像と細部の両方をつかむことが重要です。

言うまでもなく、平易に書かれていればいるほど、内容の正確さ・厳密さは失われます。
このため、右から左に鵜呑みにすると危険なのですが、先に全体の概要を俯瞰的にとらえておけば、あとからいくらでも補正ができます。

そして、わからないところが少しくらいあっても、気にしない。
どのみち、同じ対象に関して、何冊も読んでいくのです。
最初の時点でわからなかったことが、あるとき突然ひらめきのようにわかることも、ありますし。

たった1行あるいは数行がわからず読む流れを止めてしまうのは、いろいろな意味でロスが大きいとも思います。

だから、少しくらいわからなくても、気にしない。
自分の現状に合ったレベルの資料を選んでいれば、全部がわからないということは起こりませんから、適宜飛ばして先に進みましょう。

必要なら、他の資料を多読したあとにもう一度戻って、読み直せば良いだけですからね。

なお、翻訳のために本を読むときは、それを最初から最後まで通読する必要はありません。
調べている語句や技術に関する部分「だけ」、拾って読めば十分です。

資料によっては、抜粋読みでは正確な理解を得られないこともありますが、このようなときも気にせず他の資料をあたってみましょう。
ひとつの資料を読むのに時間をかけるくらいなら、異なる資料をできるだけ数多く読む方が効果的です。
このような読書方法は、シントピック・リーディングと呼ばれます。

syntopicすなわち同じトピックに関する本を一度に数冊読むことで、そのトピックに関する理解度を上げる方法です。
こういう読み方をしていると、読む資料数が増えるにつれて断片的な知識が有機的に結び付き、それまで漠然としか分からなかったことが突然分かるようになるものです。

これは、やってみた人にしかわからない感覚かもしれません。
よく、技術翻訳には専門知識が不可欠といわれますが、専門的な資料を正しく活用できれば、必ずしも「翻訳に着手する時点で」専門知識がなくてもよいわけですね。

ただし、仕事で翻訳をする以上は、常に時間との闘いになります。
限られた時間の中で最大限に多くの資料を読むために、
 (1)ほかの作業工程におけるロスを可能な限り減らし、
 (2)必要な資料を短い時間で確実に取得できるようにすることが大切です。
(1)についてはパソコンとの役割分担である程度まで解決できますが、(2)は検索の腕に大きく依存します。

検索の腕を上げるためには、情報処理能力と整理整頓のスキルが必要になってくるのですが、これについては別の機会に譲ることにして、ここでは、
  自分のレベルに合ったシントピック・リーディング
の意義と大切さについて、感じて頂ければと思います。

■関連コラム記事
多言語翻訳の舞台裏(1)-絞り込み
多言語翻訳の舞台裏(2)-多読
多言語翻訳の舞台裏(3)-辞書はあとまわし
多言語翻訳の舞台裏(4)-文法事項
多言語翻訳の舞台裏(5)-発音は不要
多言語翻訳の舞台裏(6)-言語の仕組みをとらえる

この記事を書いたプロ

有限会社サグラーシェ

通訳・翻訳 水野麻子

東京都西東京市新町4-1-3-601 [地図]
TEL:0422-38-5035

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