コラム

 公開日: 2014-04-02  最終更新日: 2014-08-28

多言語翻訳の舞台裏(3)-辞書はあとまわし

舞台裏(2)では、型をつかむための多読について触れました。
そして読む量がモノをいうのは、翻訳作業時も同様です。

私の場合、英→日、日→英のどちら方向の翻訳をするときにも、専門資料は常に英語と日本語の両方で目を通します。
もっといえば、英語以外の言語が絡む翻訳でも、英語と日本語の両方で資料を読みます。

おおよその目安として、1件の仕事をするのに最低50。
100冊を超えることも、普通にあります。

こうやって書くと膨大な量のように思えるかもしれませんが、通読ではなく、必要な技術に関する部分「だけ」しか読んでいませんから、実際にはそれほどでもありません。

具体例をひとつ、あげましょう。

インフルエンザワクチンに関する日英翻訳をすると仮定します。
この場合、「インフルエンザウイルス」「ワクチン」「感染(の仕組み)」「抗体」など、それぞれに分けて英語と日本語の資料を横断的に読んでいきます。

たとえば日本語の専門書に

 インフルエンザは感染症である

と書かれ、英語の専門書に

 Influenza is an infectious disease

とあったら、辞書を引かなくても

 感染症=infectious disease

だろうと予測ができますよね。

じつはこれが重要で、
「○○の訳語は?」という問いに対する答えを探すのに比べると、
「○○の訳語は△△で正しいか?」という問いの答えを探すほうが、ずっとラクで短時間ですむのです。


同様、フランス語で

 L'influenza est une maladie infectieuse

とあったとき、estが英語のbe動詞に相当する、uneは不定冠詞、形容詞は原則として後ろから名詞を修飾するということを知っていたら、辞書がなくても

 maladie infectieuse = 感染症

ではないかと予測できます。

(※文法に関しては、必ずしも事前に知識として持っている必要はありません。
実際に仕事として発生したら、その時点で先におさえておくべきポイントというのはありますが、何か月あるいは何年も勉強しておかなくても、できることは意外と多いのです。これについては、後日あらためて説明します。)


もちろん、すべての用語の訳を、この方法で見つけることは不可能でしょう。
でも、「訳語を求めて辞書を引く」より、技術的な理解を深めながら「自然に訳がわかってくる」ほうが、かぎられた時間を有効に活用できます。

私がフリーの翻訳者として独立した頃は、まだインターネットの商用利用が始まっていませんでしたから、資料はほぼ100%印刷物でした。
(一部、有料のデータベースから取得したデータもありました。)

今でも、信頼性の問題がゆえにネットではなく印刷物の資料が主体ではありますが、Google Booksや論文の無料データベースは、有効活用させてもらっています。

いずれにしろ、私の翻訳作業工程で、辞書を引くのはかなりあとのほうです。
まずは、技術的な知識を得ることも兼ねて、周辺の資料を読む、読む、読む、読む。

いかに「問いの答えを得やすくするか」が、重要なのです。

なお、専門書の多読で資料を選ぶ/読むコツは、
(1)難しいと思ったら無理をせず、平易な別の資料を使う
(2)全部を理解しようとしない
(3) 外国語は、発音にこだわらない
点にあります。

それぞれ、追って別項目で説明します。

■関連コラム記事
多言語翻訳の舞台裏(1)-絞り込み
多言語翻訳の舞台裏(2)-多読
多言語翻訳の舞台裏(4)-文法事項
多言語翻訳の舞台裏(5)-発音は不要
多言語翻訳の舞台裏(6)-言語の仕組みをとらえる
多言語翻訳の舞台裏(7)-資料のレベル

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有限会社サグラーシェ

通訳・翻訳 水野麻子

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