コラム

 公開日: 2014-03-29  最終更新日: 2014-08-08

多言語翻訳の舞台裏(1)-絞り込み

9種類の言語で翻訳経験があるというと驚かれることが多いのですが、じつはいくつか「コツ」があります。
それを踏まえて積み重ねていくことで、できることが飛躍的に増えていくのです。
こうしたコツを、内容別に何回かにわけて、説明します。

そこには資料の探し方や文法書の選び方なども含みますので、全体としてひとつのモデルが完成するというイメージで、とらえてください。
一言語での翻訳であれば、単独でも十分に効果は発揮できますが、多言語になると、複数の角度から積み重ねる必要がありますので。

まず第一が、絞り込み。

「翻訳」という作業を十把一絡げにとらえて、「できるわけがない」と思ってしまったら、その時点で不可能になります。
でも、「翻訳」を「文芸翻訳」と「産業翻訳」で区別して、「産業翻訳」の中でも「技術翻訳」「法律翻訳」などと区別することで、違う世界が見えてきます。

ご存知ない方のために補足しておくと、文芸翻訳というのは、小説や絵本などの翻訳です。
産業翻訳は、特許明細書、企業が海外と取引をするときの書類、医薬品の許認可申請のための書類など、主に企業の活動に伴って発生する文書の翻訳です。

正確なデータはありませんが、日本の翻訳市場の約9割は、産業翻訳が占めているとも言われています。

さて。
たとえば私の場合、事実上、技術文書のうちの特許翻訳に限定してきました。

厳密には、依頼があれば、「英語なら」他の技術文書も受けてはいます。
また、同じ技術文書でも特許に比較的近いもの(学術論文など)であれば、英語以外の言語で受けることも、ありました。

でも、「ある程度」手法の応用が利いて対応できるというだけで、特許以外だと必要な作業時間が桁違いに長くなります。

それでもまだ技術翻訳の範疇であれば対応できますが、完全に畑違いの分野、たとえば芸術や文学などになると、英語ですら歯が立ちません。
そのくらい、特定のジャンルに絞り込むということが、重要なのです。

いくつかある理由のひとつが、「型」。
それぞれのジャンルで文章の「型」というものが存在し、それがどれだけ自分のものになっているかで、結果が大きく変わります。

特許明細書でいえば、冒頭に背景技術が記載され、従来の欠点や発明の目的、発明の開示、図面があれば図面の説明、実施の形態、実施例、権利範囲を請求する部分があって、要約書と、フォーマットが決まっています。

さらにそれぞれの項で、「おさえておくべきこと」が、いくつかあるわけです。
書き方のスタイルも、ある程度は決まっています。
国によって、あるいは書き手によってバラツキはありますが、あまり極端に違うことはないわけです。

たとえば、対話ソフトなど一部の発明を除いて、特許明細書に会話文が出てくることはありません。
人称代名詞も、まれにIとwe(本発明者(ら))が出てくる以外、ほぼ使われないと思って差し支えないほどです。

複数言語に対応するか一言語だけかを問わず、対象ジャンルの「型」をしっかりとつかむプロセスは、不可欠でしょう。

こうした「型」が身につくと、ジャンルを問わず翻訳をするのと比べて、負荷が一気に小さくなります。
それはそのまま、品質向上につながります。

型については、もうひとつ重要なことがあるのですが、それはまた次回に。

■関連コラム記事
多言語翻訳の舞台裏(2)-多読
多言語翻訳の舞台裏(3)-辞書はあとまわし
多言語翻訳の舞台裏(4)-文法事項
多言語翻訳の舞台裏(5)-発音は不要
多言語翻訳の舞台裏(6)-言語の仕組みをとらえる
多言語翻訳の舞台裏(7)-資料のレベル

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有限会社サグラーシェ

通訳・翻訳 水野麻子

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